現場ではたらく機械

フールプルーフとは



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人は完全ではありません。

今回の「現場ではたらく機械」は、その前提から入りましょう。

「そんなことはわかってるよ」

たいていの人はそう答えるでしょうが、実際に何かをする場合には、けっこうそれを忘れてしまったりするんですよねコレが。

例えばうっかりした。

例えば思い違いをした。

その他にも、判断をあやまった、見落とした、などなどによって、意図や意思とはちがう動作や行動をしてしまうことがしばしばあります。残念ながら、これが人の特性です。

わたしのように、それが多い人間と、きわめてそれが少ない人との違いはありますが、人間というものは、そういうものです。

では、それらを防ぐにはどうすればよいのでしょうか?

気をつける?

ハイ、いちばん多くて、いちばん悪い答えがソレですね。

安全対策というのは、それを前提にしなければなりません。いわば性悪説ですね。どんなに気をつけても、いくら訓練しても、どれだけ注意喚起をしてみても、それでも実際にやることが意図や意思とは異なってしまう可能性はなくなりません。そして、それがそのまま事故につながってしまうこともよくあります。それが予想されるとき、あらかじめその対策を講じておくことが、事故を防ぐためにもっとも効果的です。

こうした考え方をフールプルーフと呼びます。

英語の「fool(愚か者)」と「proof(~に耐える)」をドッキングさせた言葉で、「愚か者に耐えることができる」、つまり、人がミスをしようとしてもできないようにする工夫や考え方がフールプルーフなんです。


身近なフールプルーフの例

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では、具体的な例として、みんなが知っている身近にあるものをいくつかあげてみましょう。

例えば電子レンジ。扉が空いたままだと作動しませんよね。完全に閉まってないと動きません。あれがそうです。他には、蓋を閉めないと回転しない洗濯機もそうですね。

あとはクルマ。自動車(AT車)の始動がフールプルーフの典型的な例です。シフトをパーキングに入れ、ブレーキを踏んでなければエンジンを始動することができません。そうすることでエンジンをかけるとそのまま発進してしまうリスクを避ける仕組みになっています。

バイクを運転したことがある人ならご存知でしょうが、バイクには、自転車と同じようにサイドスタンドが付いています。じつは、あのサイドスタンドもフールプルーフなんです。サイドスタンドを出したままだと発進できないようにして、走行中にスタンドが引っかかって転ぶ可能性をなくしています。

油圧ショベルのフールプルーフ

建設機械にも、さまざまな箇所にフールプルーフの考え方が取り入れられています。代表的なものが油圧ショベルの操作レバーです。

わたしがこの仕事をし始めるずいぶん前なので、自分自身で体験したことではありませんが、大先輩に聞いた、実際に起こった事故を紹介しましょう。

油圧ショベルの運転手が、バケットを宙に浮かせたまま機械を降りようとしたとき、作業服の裾が操作レバーに引っかかり、アームが誤まって動いてしまい、下にいた作業員さんを直撃して死亡させてしまったという痛ましい事故がありました。

現在の油圧ショベルは、構造上このタイプの事故が起こる余地がありません。運転手がキャビンから降りようとすると、すでに操作レバーはロックされて動かないようになっているからです。

その仕組みはおどろくほど簡単です。


まず、これが運転席にすわった状態です。
(右上に映ったスキンヘッドのおじさんがノーヘルメットなのは見逃してください。あくまでも写真撮影用で作業はしておりませんので^^;)




この状態ではエンジンがかからず、油圧ショベルを動かすことができません。

ポイントは左脚の方、つまり乗り降りするドア側にあります。

ではどうすれば動かすことができるか。ワンアクションしか必要ありません。





左操作レバーの下についた動作ロックレバーを引き上げる。たったそれだけです。こうするとロックが解除されエンジンを始動させることができます。

でも、このままだとロックレバーが引っかかって降りようとしても降りられません。





降りるためにはロックレバーを引き上げてやる必要があります。




すると、ふたたび操作がロックされて機械が動くことはなくなるのです。

左操作レバーごと上げ下げする機種もあります。





ロックされた状態です。


左操作レバーもろとも、そっくりそのまま下に倒すと、機械を動かすことができます。



身近なフールプルーフを探してみよう


先に紹介した死亡事故の理由はひとつではありません。たった数行の説明ですが、それだけでもいくつかの不安全行動が重なって起こったものであることが明らかです。

たぶん昔は、そのような事故が多く起きたのではないでしょうか。たしかに、じゅうぶん気をつければ事故が起きる可能性は低くなりますが、それでもゼロにはなりません。

そこで、誤った動作をしたときも危険な状況にならない、またそもそも誤った操作ができないように機械の設計段階でフールプルーフ機能を組み込んだのだろうと想像します。

先に紹介した電子レンジや洗濯機、あるいはクルマやバイクの他にも、フールプルーフの例はたくさんあります。

「お、もしかしてこれってフールプルーフ?」

注意をして見てみるとけっこう身近なものがそうだったりしますよ。

え?温水便座の洗浄シャワー?

ぴんぽ~ん。たしかにアレもそうですね。人が便座にすわらないと洗浄機能が使えません。

あなたも身近な例を見つけて、ちょっと自慢気に人に教えてあげましょう。

さあ、レッツ・フールプルーフ!!

(みやうち)

参考サイト

職場のあんぜんサイト~フールプルーフ~』(厚生労働省)

しぶちょー技術研究所~安全設計の基本-フェールセーフとフールプルーフ-



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